2021年度 第48回
■入選 該当作品なし
■入選佳作 『大正パンデミック』 磯谷智史 作
今回も多数の応募をありがとうございました。100本を超える応募があった年もありましたが今回は31作品でした。本数的には少なかったものの内容は濃く、劇団員による一次選考を経て文芸演出部による最終選考では4作品が取り上げられ、検討の結果1作品を佳作といたしました。
以下、最終選考に取り上げられた作品(作者名敬称略)
『我という人の心はたゞひとり』(竹市英司 作)
『サマーカーニバル』(戸津航 作)
『書いても書き直し』(伊藤圭太 作)
『大正パンデミック』(磯谷智史 作)
最終選考作品に対する講評は下記の通りです。
〈選評〉『我という人の心はたゞひとり』
小説家谷崎潤一郎の生きた様子を最後の妻松子の語りで進行していく戯曲。ドロドロになりそうな人間関係がドライに可笑しみをもって展開される内容ながら、人物の描かれ方が想像の域を出ず残念。もっと弾けて欲しかった。
〈選評〉『サマーカーニバル』
限界集落脱出策として村の青年男女たちが石器発掘を材にあれこれ仕掛ける物語。色んな逆転が出来過ぎだが軽喜劇として楽しめるもののリアリティが乏しい。発掘現場をめぐるリアリティを出すかいっそリアリティを飛び越える発想で書いてもよかったのではないか。
〈選評〉『書いても書き直し』
作者の思い入れを強く感じ楽しく読めたという選者もいたが、動きの少なさから見る楽しさに欠け、ラジオドラマ向きではないかという評が大半を占めた。
〈選評〉『大正パンデミック』
スペイン風邪を時代背景にCOVID19に翻弄される現世をイメージさせる内容。笑いの数は少ないが良く書けている。エンディングにも好感が持てる。しかしながら第三幕からが駆け足の感あり。同作者により以前応募された「眼上の敵」(佳作)における整合性無視的面白さはないが、今!という作品。
以上、入選作品がなかったのは残念ですが、入選はそのまま上演となるだけにどうしても慎重にならざるを得ません。どうぞため息を執筆へのエネルギーに換えてください。
2020年度 第47回
■入選 該当作品なし
■入選佳作 『あなたの代わりは』 倉嶋猫呂多 作
■奨励賞 『次期町内会長どの!』 しらいしえりこ 作
本年度は34作品の応募がありました。コロナ禍の大変な状況にもかかわらず、果敢にご応募下さった皆さま、ありがとうございました。
第一次選考は、演技部を含む多くの劇団員によって行われ、下記の作品が審査を通過しました。
『千年の孤独』(戸津航 作)
『あなたの代わりは』(倉嶋猫呂多 作)
『次期町内会長どの!』(しらいしえりこ 作)
最終選考ではテアトル・エコー文芸演出部全員が審査にあたりました。
〈選評〉『千年の孤独』
ある新薬が開発された。その薬は人間の時間経過の感覚を狂わせ、一定期間完全な孤独という過酷な状態に追い込めるという。その治験に、ある刑務所の受刑者が名乗りを上げ、刑務所の職員が対応にあたることになった。たが、薬は本当に効くのか? 刑務官、受刑者、薬の開発者、官僚、慰問に来た講談師…様々な人物が繰り広げるドタバタコメディ。新薬の治験、刑務所という設定など、面白い要素は組み込まれていたが、登場人物のテンションが常に高い状態でドラマに緩急がないのが残念。新薬のもたらす効果のつじつまや、キャラクターのリアリティなどのどこかに信じられるポイントがしっかりほしかった。
〈選評〉『あなたの代わりは』
一人暮らしの母親が、娘の結婚の後押しを娘に内緒でするために、「自分には恋人がいるから心配しないで大丈夫」という芝居を打とうとするが、恋人役と思った初対面の男性は実は娘の恋人で、恋人役になるはずの人を娘の年の離れた恋人と思い込み…カン違いにカン違いが重なる取り違えコメディ。セリフの自然なやり取りに面白みがあり、登場人物への愛情を感じた。なぜ、誤解を解かずにそのまま進むのか?という疑問が浮かぶ点が描き込み不足で残念だが、最後まで破綻させずにうまくまとめ上げた。舞台の設定がやや映像的で、舞台上でうまく成立させるためには演出の工夫が必要そうだが、人の体温を感じる作風と、奇をてらわずにいながら笑いを誘う筆力に今後の期待が集まった。
〈選評〉『次期町内会長どの!』
妻に先立たれ一人暮らしとなっている老人の元へ、祖母の代わりに町内会長を務めているという高三の青年がやってくる。次期町内会長を引き受けてほしいというのだ。老人は全く受ける気がない。他にも候補者が引っ張り出されるが、それぞれ都合のいい理由をつけては逃れようとする。責任を擦り付け合う大人たちと、受験を押して奮闘せざるを得なくなる高校生とがぶつかるコメディ。冒頭のやり取りから面白くなりそうな期待をしたが、竜頭蛇尾。それぞれの思惑の描き方が浅く、表面的に説明したに留まったことが残念。だが、セリフの選び方やコメディ感には好感が持てたことから、特別に「奨励賞」を授与し、今後の成長に期待したい。尚、奨励賞には賞金等はありません。
2019年度 第46回
■入選 該当作品なし
■入選佳作 該当作品なし
本年度は75作品の応募がありました。ご応募下さった皆さま、ありがとうございました。
第一次選考は、演技部を含む多くの劇団員によって行われ、下記の作品が審査を通過しました。
「人の生き方が面白いくらいに繋がって人生は出来ている」(エヌ作)
最終選考ではテアトル・エコー文芸演出部全員が審査にあたりました。
〈選評〉
同じシーンの繰り返しをモチーフにオムニバス式の二人芝居で展開される作品。会話の面白さはあるものの、共感も反感も湧かない。それは、人間を描こうとする気がさらさらないと思われる作家の狙いであるかも知れないが、突き抜けるまでに及ばず残念。
2018年度 第45回
■入選 該当作品なし
■入選佳作 『この大海原の片隅で』(作・武浩幸)
本年度は52作品の応募がありました。ご応募くださったみなさま、ありがとうございました。
第一次選考は、演技部を含む多くの劇団員によって行われ、下記の3作品が審査を通過いたしました。
『ウェディングプレリュード』(作・石井宏明)
『この大海原の片隅で』(作・武浩幸)
『夏の終わりのユリゲラーズ』(作・水都サリホ)
(※応募順)
最終選考では、テアトル・エコー文芸演出部全員が3作品を読み、審査にあたりました。
〈選評〉
『この大海原の片隅で』
逃げることのできない「船上」という閉塞空間で、夫婦愛と社運をかけたドタバタが繰り広げられるワンシチュエーション・コメディ。
設定の描写や提示のしかた、人物の掘り下げ、各々のエピソードの絡め方などにブラッシュアップの可能性を残しますが、ひとつ突き抜けた明るさと軽快さが評価され、佳作に選ばれました。
『ウェディングプレリュード』
一軒の家を舞台に、ある家族とご近所さんたちが繰り広げる人情コメディ。
彼氏とケンカしてきた娘、初めて嫁を連れてくる息子、旦那の浮気が原因で家を出てきた娘などの状況を、喜劇的にかつ奇をてらわない語り口で描いた点は好感が持てましたが、各場面の関係が並列的で、もう一つジャンプ力に欠けた点が惜しまれます。
『夏の終わりのユリゲラーズ』
メンバーの死をきっかけに再会したアイドルグループの元メンバーたちが、過去と現在をタイムトリップする異次元コメディ。
時空を行き来しながら過去を検証し、未来を変えようとしていく発想は興味深かったのですが、過去の着地点がいつも会議室だった点は残念。メンバーの描き分け等、もっと大胆に仕掛けてほしかったです。
今年度の応募作品には秀作が多く見受けられ、最終選考に至らなかった作品の中にも戯曲として読みやすい、まとまりを持ったものがありました。設定やストーリーには魅力を持ったこれらの作品群がもう一歩伸びてくるために必要なのが、「ひと」をどう描くかです。それは登場人物それぞれが独自の「視点」や「価値観」をもっているかというその役の「生き方」の部分をとらえる作業です。「ひと」とその関係をより深く立体的に描く工夫にぜひチャレンジしてください。
テアトル・エコーは常に新しい劇作家との出会いを求めています。
来年度も創作戯曲の募集を予定しています。
「荒削りでも大胆に描くことに挑戦する」こだわりと意欲に満ちた喜劇との出会いに期待します。
以上
2017年度 第44回
■入選 該当作品なし
■入選佳作 該当作品なし
今年度は全41作品の応募がありました。ご応募いただきました皆さま、大変ありがとうございました。
第一次選考では多くの劇団員が選考にあたり、10作品が推薦されました。
その後テアトル・エコー文芸演出部全員が10作品全作を読んだうえで、以下の3作品に絞りこみ最終選考を行いました。
『蚊の子のカゾク』(作:谷 風作)
『ピンデン〜ある雨の日のヨジババのいたずら〜』(作:奥田 文恵)
『小林一茶のおんな対抗記』(作:高橋 尚美)
(※応募順)
〈選評〉
『蚊の子のカゾク』
この作品はけっして喜劇ではありませんが、作者には独特の世界観があり興味を持ちました。
言葉あそびなど、台詞にも工夫が見られました。
しかし、作者が書きたかったことが十分に描ききれていないようでした。
『ピンデン〜ある雨の日のヨジババのいたずら〜』
いわゆるタイムスリップ物ですが、前半がピンク電話を通してしかやりとりをしていないのが残念でした。
登場人物全員が高校生ですが、多感な年頃の葛藤をもっと書き込んで欲しかったです。
テアトル・エコーで上演する可能性は低いという意見がありました。
『小林一茶のおんな対抗記』
俳句をからめた着想は面白いと思いました。
ストーリーの展開もわかりやすく書かれていましたが、作者の“ここが面白い!”というこだわりが見られませんでした。
今年度の応募作品はどの作品も秀作で、上演すれば十分ある形にはなるという意見がありました。
しかしながら、あくまで戯曲賞ということで判断をし、受賞の評価にはいたりませんでした。
テアトル・エコーは常に新しい劇作家との出会いを求めています。
来年度も創作戯曲の募集を予定しています。
ぜひ「荒削りでも自分の世界観を大いに展開させて、大いに笑わせる戯曲」をお待ちしています。
以上
2016年度 第43回
テアトル・エコー創作戯曲募集選考結果について
■入選 該当作品なし
■入選佳作 該当作品なし
<選評>
今年度は全53作品の応募がありました。ご応募いただきました皆さま、たいへんありがとうございました。
第一次選考では多くの劇団員が選考にあたり、以下の8作品について最終選考を行いました。
『酉の九と十の剣』(作:新堂陣)
『東島秀俊の限界』(作:山本)
『本日はお日柄も良く』(作:武 浩幸)
『踊り出した遺体』(作:小島恒夫)
『女と男と井戸の中』(作:森田智美)
『あいつはどこに行った。』(作:奥村亮太)
『ホテル・シャトー・キャッスル』(作:水都サリホ)
『わらすが伝授手習鑑』(作:沖村真保)
(※応募順)
最終選考はテアトル・エコー文芸演出部全員が8作品全作を読んだうえで行われました。
どの作品も秀作でしたが、「人物の掘り下げが足りない」「ストーリーの展開不足」などと、受賞の評価にはいたりませんでした。
残念ながら受賞作は出ませんでしたが、今回は特別に、水都サリホ氏に対し「奨励賞(ただし、賞金はなし)」を出すこととしました。水都さんは過去3年間毎回最終審査に作品が推薦され、常に次回作に大きな期待を持たせてくれています。今後の創作活動の励みにしていただければ幸いです。
テアトル・エコーは常に新しい劇作家との出会いを求めています。来年度も創作戯曲の募集を予定しています。ぜひ「荒削りでも自分の世界観を大いに展開させて、大いに笑わせる」戯曲をお待ちしています。
選評文責 テアトル・エコー文芸演出部 保科耕一
2015年度 第42回
テアトル・エコー創作戯曲募集選考結果について
■入選 該当作品なし
■入選佳作 該当作品なし
<テアトル・エコー第42回創作戯曲選評>
今年度は全79作品の応募がありました。ご応募いただきました皆さま、たいへんありがとうございました。
第一次選考では多くの劇団員が選考にあたり、以下の8作品が最終選考に推薦されました。
『六旋律の協和音』(作:近藤健太郎)
『謎のパラダイスツアー海の旅』(作:小島恒夫)
『ジョン・ングモキュンピュリピュリハムがやってくる』(作:山本)
『奇妙な動物』(作:川野川)
『幽霊レストラン』(作:ティ・カトウ)
『巫女がいるスイートルーム』(作:加藤和博)
『忍者探偵』(作:水都サリホ)
『サラリーマンイメクラ「民*民」』(作:水都サリホ)
最終選考はテアトル・エコー文芸演出部全員が8作品全作を読んだうえで行われました。
どの作品もとても読みやすいものでした。しかし、「ストーリーの着眼点やアイデアが面白い」のに「人物の掘り下げ方が足りない」や、「想像力が豊かで、キャラクターの書き分けもよくできている」のに「ストーリーの展開が弱い」と、どれも受賞にいたるだけの評価にいたらず、「入選・入選佳作いずれについても該当作品なし」という結果に終わりました。
テアトル・エコーは常に新しい劇作家との出会いを求めています。
来年度も創作戯曲の募集を予定しています。
ぜひ「荒削りでも自分の世界観を思い切り展開させて、大いに笑わせる」戯曲をお待ちしています。
以上
2014年度 第41回
テアトル・エコー創作戯曲募集選考結果について
■入選 該当作品なし
■入選佳作 該当作品なし
<テアトル・エコー第41回創作戯曲選評>
今年度もたくさんの創作戯曲が集まりました。総数103作品。ご応募くださった皆さま、ありがとうございました。
多くの劇団員による第一次選考を経て、以下の6作品が最終選考に残りました。
『苦いココア』(作:神品正子)
『魔女の棲むスイートルーム』(作:加藤和博)
『陪審員が教えてくれた』(作:和田暁知)
『Who am I?』(作:水都サリホ)
『い抜き殺人事件』(作:ロベルト)
『停車場』(作:磯谷幸男)
劇団の文芸演出部が全6作品を読み、最終選考に臨みました。
どの作品も秀作でした。その設定はとても面白く、会話もとても読みやすいものでした。
しかし、全ての作品に共通しているのは、「台詞が平坦と」いうことでした。人物がどのような台詞を発するのかが作品の面白さにつながるので、そこのこだわり、いわば人物の掘り下げが足りなければ、どれだけ素敵なアイデアがあっても面白さへの道は遠いのです。それは、厳しい言い方をすれば「作者の世界観」ということになります。どの作品も「そつなく、きれいにまとめている」感が否めませんでした。
最終選考の結果、残念がら本年は入選、佳作作品に該当する作品はありませんでした。
テアトル・エコーが創作戯曲を公募するようになってから41年が経ちます。これまでに出会った入選、佳作作品は決して多くはありません。けれども、テアトル・エコーは新しい劇作家との出会いを常に期待しています。
ぜひ、「自分はこの世界観を書きたい」「これだけ劇的な飛び方に挑戦した」「人物をとことん掘り下げて書いてみた」「とにかく笑わせるぞ」のような、こだわりのある意欲的な戯曲をこれからも求めています。
選評文責 劇団テアトル・エコー文芸演出部 保科耕一